STREET ART IN MARAIS : パリ・マレ地区のストリートアートを巡る


INTRO

パリの流行の発信地として知られているマレ地区。文化や芸術活動が盛んなこの地域では、様々なスタイルのストリートアートを目にすることもできます。

ポストモダニスムの進行する現在において、ストリートアートが芸術か落書きか、という線引きがますます曖昧になり、これを芸術とみなす人も増えてきています。しかし、それでもやはり公共の場所に絵を描くことのリスクは大きく、多くのストリートアーティストたちは正体を隠して夜間などにひっそりと創作活動を行っています。ストリートアートに対する取り締まりの厳しさは街によって違いますが、パリにおいては、街中でストリートアートが見られるだけでなく、これをテーマにしたイベントなども開催しているので、比較的寛容な態度をとっていることがわかります。

ということで今回は、マレ地区で見ることのできる有名なフランス人アーティストたちの作品をいくつかご紹介したいと思います。

 

HISTORY

ストリートアートが始まったのはロシア。ロシア革命後、ヴラディミール・マヤコフスキー(Vladimir Mayakovsky)が停滞気味だったアートシーンを刺激し、アーティストたちを扇動するため「街を私たちのキャンバスにしよう」と提案。これに多くの人が応え、街中における落書きがアートパフォーマンスとして、そしてプロパガンダの手段としてみなされるようになっていったのだそう。

それでは、いくつかの作品を見てみましょう!

 

JEF AÉROSOL

こちらはポンピドゥーセンターとサン・メリー教会(Église Saint-Merry)の間、ストラヴィンスキーの噴水(Fontaine Stravinsky)のある広場で見ることができる、ジェフ・アエロソル(Jef Aérosol)が描いたダリの肖像画。彼の作品と、その下部に描かれているグラフィティを見比べてみると、芸術作品と落書きの線引きについてなんとなくわかるような気がしませんか?

 

GREGOS

グレゴス(Gregos)のトレードマークは、なんと人の顔を形どったマスク!こちらは2014年の国際女性デーの際につくられたもので、「我々は皆女性の体内で育った(Nous avons tous grandi dans le corps d'une femme)」というメッセージが添えられています。このように時事を取り入れた作品が多いのもストリートアートの特徴のひとつ。彼の活躍は世界に及んでおり、ある日どこかの国の街角で壁に張り付いたマスクに出くわしたとしたら、それはグレゴスがそこにいた証なのです。

 

JOHN HAMON

パリジャンなら誰もが知っていると言っても過言でないこちらの顔写真はジョン・アモン(John Hamon)の作品。彼は、「プロモーションアート(Art promotionnel)」という概念を作り、2001年から自分の顔写真のポスター(常に同じもの!)をアート作品としてパリを中心にフランス、そして世界の至る所に掲示してきた風変りなアーティスト。ポスターだけでなく最近はプロジェクションも行っており、なんとエッフェル塔や凱旋門にジョン・アモンの顔が映し出されたことも。なお、今後においてはルイ・ヴィトン財団美術館やポンピドゥーセンターなどでも展示を予定しているそう。顔写真ひとつでここまでの活動を展開できるのは、コンセプトの斬新さがあってこそではないでしょうか。

 

INVADER

マレ地区だけでなく、世界中で見ることのできるインベーダー(Invader)のストリートアート。モザイクで作られたポップなアートがパリの街並みに彩りを添えます。お気づきだと思いますが、彼の名前の由来は日本発のゲーム、スペースインベーダー。実際に、ゲームに出てくるインベーダーキャラクターは彼の作品を代表するモチーフです。また、街をアートで侵略(Invasion)する、という意味も込められているのだそう。

 

世界的なストリートアーティスト、バンクシー(Bankcy)と同様、インベーダーも夜間などにひっそりと創作活動を行うアーティストとして知られています。1998年には人知れずルーヴル美術館を"侵略"したことも!これには美術館や文化会館などの枠からアートを解放しよう、という意味が込められていたのだそうです。また、NASA及びESA(欧州宇宙機関)とコラボレーションのもと、インベーダーの作品は国際宇宙ステーションにも設置されました。

ちなみに、世界中でインベーダーの作品の写真を集めてポイントを稼ぐゲーム、「Flash Invaders」というモバイルアプリもあるんですよ。

 

THOMA VUILLE

そのキャラクターの名前、ムッシュー・シャ(ミスター・キャット)で知られるトマ・ヴュイユ(Thoma Vuille)。こちらの写真は彼がBHVのシャッターに作品を制作している最中に撮られたものです。

ムッシュ―・シャは1997年、トマが美術学生だった時に参加したワークショップでパキスタンの女の子が描いた笑っている猫にインスピレーションを受けて生まれました。その後彼は故郷オルレアンでムッシュー・シャのペインティングを開始し、次第にブロワ、トゥール、レンヌ…と拡大、そしてついにはパリのポンピドゥーセンター前に巨大なムッシュー・シャを登場させるまでに至ります(現在はもう存在していません)。
しかし、2007年にオルレアン警察は市内の壁へペインティングを行った彼を逮捕。軽い罰で済みましたが、その後彼はゲリラ的な創作活動をやめ、街の文化機関などとのコラボレーションのもとで働くようになります。この彼の態度をストリートアートの商品化だとみなした人々からは批判があがり、多くの議論が起こりました。この一連の出来事は、ストリートアートのアイデンティティが複雑で、それを守ることがいかに大変であるか、ということを物語っています。
このような紆余曲折がありましたが、それでも世界中にあるムッシュー・シャの作品は、今日も多くの人を笑顔にしています。アンスティテュ・フランセ東京の壁でも見ることができますよ。

 

GZUP

セガのゲーム、ワンダーボーイにインスパイアされたというタコのようなモチーフを描くのはGZUP。ちなみに彼の名前はスヌープドッグのアルバム、Doggystyleの中の一曲「GZ UP, Hoes Down」に由来しています。彼の作品はいつも高いところに設置されているので、探す時は目を上げて街を見てみましょう。

 

VIOU

写真の小さなダイアモンドを設置したのは、最近有名になってきているアーティスト、VIOU。彼はごみとして捨てられた鏡を使って、宝物の象徴であるダイアモンドのモチーフをつくっています。こちらもGZUPの作品と同様、高い位置に設置されていることが多いので、目線を上にして探してみましょう。

 

O'BON PARIS' NOTE

美術館で鑑賞する作品とは違った魅力を持つストリートアート。マレ地区は様々な作品を見つけることができる場所なので、訪れた際には街の壁に目を配りつつ散策してみてくださいね。

 


文 : Jihye Choi

写真 : Jihye Choi, Vicent Sacau

訳 : Rei Nishiyama