観光客向けの定番レストランではなく、地元の人々に親しまれる本物のパリのビストロを探している方におすすめなのが「Le Cellier(ル・セリエ)」です。ミシュラン星付きレストラン「Louis」のシェフ、ステファン・ピトレ(Stéphane Pitré)が手がけるこの店では、洗練された料理を手頃な価格で楽しむことができます。

シェフのステファン・ピトレは、自身のルーツであるブルターニュから大きなインスピレーションを受けています。そのエッセンスは、新鮮な魚介を活かした料理に存分に生かされており、一口でその洗練を実感できるはず。さらに各国の食文化を織り交ぜることで、ここでしか味わえない独創的なフュージョン料理を生み出しています。

お店があるのは、観光地から少し離れたパリのローカルエリア、パリ9区。客層の多くは地元の人々で、食事をするだけで「日常のパリ」に溶け込んだような感覚を味わえます。肩肘張らずに楽しめる、洗練された料理と雰囲気はまさに本物のビストロ体験。

店内はフレンチ・ビストロの伝統を大切にしつつ、ミニマルで上品なデザイン。温かみのある空間に包まれながら、心地よいパリの空気を感じることができます。

店内には、2つの広々としたダイニングエリアがあります。バーカウンターに近いフロントは活気があり、軽く一杯や前菜を楽しむのにぴったり。一方、奥のスペースはガラス屋根から光が差し込み、中庭を望む落ち着いた雰囲気で、ゆったりと食事を楽しめます。夏には屋根付きテラス席もオープンし、爽やかな風とともに過ごせるのも魅力です。
ランチとディナーで表情が変わるのも「ル・セリエ」の面白さ。昼は、質の高い食事を求めて訪れる地元のビジネスマンで賑わい、活気にあふれます。夜になると一転して、親密でリラックスした雰囲気に。時間をかけて一皿ずつ味わいながら、シェフ渾身の料理を堪能するのにふさわしい空間へと変わります。

ル・セリエの魅力は、クラシックなフランス料理に加えて、シーズンごとに登場するクリエイティブなスペシャルメニューにあります。特に評判なのは魚介を中心とした料理ですが、厳選された肉料理や、ベジタリアンメニューも揃っており、幅広いゲストが満足できるラインナップです。
今回いただいた中で印象的だったのが、2つの前菜。

まず一皿目は「鯛のマリネサラダ」。生姜とパクチーで香りを添え、青パパイヤや人参、カシューナッツを組み合わせた爽やかな一品です。タイ料理を思わせるエスニックなアクセントが効いていて、彩りも味わいも鮮やか。フレンチの枠を超えた、シェフのセンスが光るスターターでした。

もうひとつの前菜は、フランス料理の王道ともいえる「パテ・アンクルート」。ブルターニュ地方で採れるサリコルヌ / サンプフィア(海のアスパラガス)をアクセントに、きゅうりやピクルス、フレッシュなメスラン(ベビーリーフミックス)サラダを添えて提供されます。クラシックな一皿でありながら、軽やかさと上品さを兼ね備えた仕上がりでした。
アペリティフを楽しみたい方には、小皿料理のシェアメニューも用意されており、友人や家族との食前のひとときを華やかに彩ります。
今回の訪問では、シェフの魚介料理の真骨頂を感じさせる2品が特に印象的でした。

タコのソテー
醤油でグレーズされたタコに、香り高いパクチーと生姜、そして寿司飯を合わせた一皿。アジアと西洋のテイストが絶妙に融合し、タコは驚くほど柔らかく仕上がっています。

スズキのロースト
レモンのコンフィとエシャロットで風味を添え、キャロットとクミンのムースリーヌ(ピュレ)を添えた一皿。軽やかでありながら味わい深く、魚好きにはたまらないハーモニーが楽しめます。
もちろん、鶏肉や牛肉などの肉料理も用意されていますが、この日は魚介メニューを中心に堪能しました。
食事の締めくくりは、華やかなデザートで。

ひとつ目は、目にも楽しい、美しい演出つきのティラミス。
グラス仕立てのヴェリーヌに、チョコレートの殻をかぶせ、そこへ熱々のエスプレッソを静かに注ぐと…ゆっくりとチョコレートが溶けていき、中からティラミスが現れます。食後のひとときを劇的に盛り上げる、印象的な一皿でした。
もうひとつは「フォンダン・オ・ショコラ」をシェフ流に再解釈した逸品。
ヴァローナ社グアナラ・グランクリュの濃厚なショコラに、なんと、ほんのり味噌を効かせ、奥行きのある甘みと塩味のバランスを表現。フランスらしい味噌の取り入れ方に驚きを隠せません。とろけるような口溶けとともに、余韻まで贅沢に楽しめる仕上がりでした。

住所:25 rue de la Victoire, 75009 Paris
アクセス:
・メトロ12号線:Notre-Dame-de-Lorette(徒歩5分)
・メトロ7号線:Le Peletier(徒歩5分)
・メトロ8・9号線:Richelieu-Drouot(徒歩5分)
営業時間:月曜〜金曜
・ランチ 12:00〜14:30
・ディナー 18:30〜23:00
周辺スポット:
お食事の前後には、すぐ近くの「ノートルダム・ド・ロレット教会」に立ち寄るのもおすすめです。新古典主義様式の美しい教会で、古代神殿を思わせる外観は観光客にあまり知られていない隠れた名所。静かに芸術と祈りの雰囲気を味わえる空間です。
Article and photos: O'bon Paris Team